A級 B級 C級 D級増幅

これは、トランジスタの動作点における分類です。

別の視点から言えばトランジスタの効率の点における分類です。

効率の良い順は左から順に

A級 < B級 < C級 < D級

となります。しかし信号の歪みの多い順は左から

A級 < B級 < C級 < D級

となります。設計する回路により、効率を取るか、歪みの少ない方を取るか決めます。

しかし、実際にはA級とかB級の話が出るときは、具体的にはオーディオアンプや送信器の最終出力段の効率に関する話の時だけのようです。

A級増幅

すべての入力信号を増幅します。小信号増幅回路である、高周波増幅回路、中間周波増幅回路や、最初に紹介したエミッタ共通回路はA級です。歪みを極端に嫌うオーディオマニアは必ずアンプをすべてA級にしているはずです。メーカー製の無線機でも送信器部分の最終出力段にA級増幅を採用して高調波をできるだけ下げるようにしたものもあります。しかし効率は悪いので、電気を食います。オーディオアンプなら放熱板が大きくならざるを得ません。

B級増幅

入力した信号の上半分(または下半分。オシロスコープ上の)だけを増幅します。

一般的なオーディオのアンプの最終出力段やオペアンプの内部等価回路の最終段(エミッタフォロワ、ソースフォロワ)で見られる部分です。

一般的なオーディオアンプは、ほとんどの場合正確にはAB級と言われている方式で駆動しています。これは純粋にB級アンプの場合、トランジスタのベースエミッタ間電圧(約0.6V)より小さな信号が入力すると全くトランジスタが動作せず、ひずみが増加してしまうために、常に動作させるための微弱電流を流すようにした方式です。当然効率は純粋なB級より落ちます。

C級増幅

上半分、または下半分の一番振れの大きい部分のみ増幅します。要するに微弱信号部分は増幅しません。無線機の送信部分で使用されます。

D級増幅

これは厳密には間違っているかもしれませんが、特定の信号(レベル)のみにトランジスタが反応するようにする回路です。増幅と言うよりスイッチと言った方がいいとさえ思えます。最近言われているデジタルアンプと言われているものはD級のアンプです。

トランジスタの効率について(エミッタフォロワの効率)

トランジスタの効率と言うのは一言で言えば、トランジスタのコレクタ損失の大小を指します。

コレクタ損失と言うのは、端的に言えばトランジスタが熱くなるかどうかの指数です。

具体的には、

コレクタエミッタ間電圧(Vce) × コレクタ電流(Ic)で表します。 (電力をあらわしています)

これは一言で言えば、入力信号と出力信号の振幅が同じならほとんどコレクタ損失はなくトランジスタは熱くならないと言うことです。(エミッタフォロワの場合コレクタ電圧は電源電圧と同じで、エミッタの電圧(電位)は入力信号によって上下します。)

逆に、微弱な信号を増幅している時はコレクタ損失が大きくトランジスタは熱くなると言うことです。だから常にトランジスタに微弱電流を流しているAB級のアンプは、音の強弱に関わらず熱くなるのです

入力信号と出力信号が同じなら、増幅といえないのではないのかと思うかもしれませんが、オーディオアンプの最終段はエミッタフォロワもしくはソースフォロワになっており、電圧増幅度は1ですが、電流を多く流すことで大きな音を鳴らすようになっています。(逆に電圧が高くて電流が少ないものの例として静電気などが挙げられます)

この最終段のトランジスタの効率がオーディオアンプ全体の効率をほとんど決定していますので、この部分を効率化することで、最終段のトランジスタに放熱板を付けずに少ない電力で大出力を得ることができるのです。(一番電気を食っている部分だから、これを熱にしないで信号の増幅だけに電気を使えば効率が良くなると言うこと)

左の図で説明すれば、縦の矢印の長さが短いもの程、トランジスタの効率はよくなります。また、B級増幅は、入力信号が+Vccもしくは-Vccに近い部分なら(例えば入力信号が図の赤い線の所より水色の線を指しているなら)当然コレクタエミッタ間電圧(Vce)もほとんどこの電圧と同じなので、コレクタ損失であるVce×Icが小さくなりトランジスタは熱くならないはずです。

A級増幅の場合はいかなる入力信号でも常にトランジスタはONになっており、A級のアンプでは小さな音で聴いていても、トランジスタが熱くなっているはずです。

B級増幅器の場合はNPNトランジスタが図の上半分を担当し、PNPトランジスタが図の下半分を担当しています。(プッシュプルエミッタフォロワの場合)

C級増幅は青の線の部分から上の信号のみしか増幅しません(どのくらいの電位かははっきり言って適当である)

D級増幅の場合の入力信号は、VCC+もしくはVCC-(多分それに近い電圧)で、それ以外は無信号です。

具体的にはオーディオ信号を振幅が一定なPWM波(Pulse Width Modulation)と言う一種の矩形波にいったん変換したものを増幅します(左参照)。PWM波では元の信号の強弱は矩形の横幅の長短で表現します。

このPWM波なら、トランジスタの動作ポイントを入力信号が+Vccもしくは-Vccの時だけにすることができるので、Vceを限りなくゼロに近くすることが出来、コレクタ損失を大幅に下げることが出来ます。もちろん信号によってコレクタ損失が変化することもありません(振幅が一定なので)。大音量で聴いても、小さな音量で聴いても同じ効率を維持できます。効率がよければトランジスタに放熱板を付ける必要もなくなるので、大出力のアンプでもかなり小型化することが出来ます。実際はトランジスタではなく高速スイッチングが可能なFETを使っているようです。

これかデジタルアンプといわれるD級増幅の高効率の秘密です。私はこのアンプを造ったことがありませんが、D級で作動させるトランジスタ(FET)にかける電圧をスイッチング電源で可変させれば(もちろん入力信号もそれと一緒に変化させる必要がある)、さらに効率の良いアンプができるかもしれません。

最近ではIC化され、小出力のオーディオや各種条件の厳しいカーオーディオに採用されているようです。しかし、オーディオ信号をいったんPWM波と言うデジタル信号に変えるたために、増幅後に元の信号に戻すためにローパスフィルターを設ける必要があり、そのローパスフィルターが高調波を撒き散らしたりするなどの問題点もあります(PWM波自体多くの高調波を重ね合わした波なので)。もちろん原音に手を加えるために、音質はA級より悪くなります。

..ですが、シャープなどのメーカーではCDやMDのデジタル信号(PCMなど)を直接PWM波に変えるアンプも作っているようなので、一概に音質が悪いとも言えません。PCM信号を直接PWM波に変える方法は、スピーカの直前まで全てデジタル信号であると言えます。

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