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高任和夫「燃える氷」 メタンハイドレート開発の危険性を示唆する小説

高任和夫「燃える氷」 amazon.co.jp

2013/01/13の産経新聞記事
メタンハイドレート ガス海洋産出へ試験開始

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2013.1.13 12:54
独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は13日、次世代エネルギー資源として有望なメタンハイドレートの埋まる海底からメタンガスを取り出す試験作業を始めた。

同日からチャーターした地球深部探査船「ちきゅう」が12日、静岡市の清水港に到着。近く試験場所の愛知県渥美半島沖に向かい、2月ごろに実際にガス産出を試みる。

メタンハイドレートの産出試験はこれまで陸上での事例はあるが、海洋では世界初。JOGMECに事業を委託した経済産業省は、将来的には商業化し、国内に安定供給したい考え。

ちきゅうは深海域で地底を深く掘削する設備を持つ。全長は新幹線約8両分に当たる210メートル、船底からの高さは30階建てのビルに相当する130メートル。清水港では試験機材を積み、天候などを見極めて出発する。
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平成15年(2003年)5月30日第一版が発行されたこの本の内容に現実が添って行っているのだろうか?
この小説では、上の記事と同じような場所に採掘プラント作り、その直後、ガスが大量放出してプラントが崩壊、伊豆地方に大地震が起きて富士山が噴火する。

私はこの小説だったと思うが、出版当時この本が本屋で平積みされていて、オビに書かれた文章を見て、同じような懸念を持っていた。そして去年からメタンハイドレート関連報道が目に付くようになったので思い出したように購入した。ろくに売れていないようで私が買ったのは初版本の中古だ。この文章書いている時点では、配送料を抜きにすれば1円で購入できる。

この本でメタンハイドレート採掘の危険性となる根拠の一つとして、ストレッガ地滑り(Storegga Slide)の例を出して示唆している。これは約8000年前にノルウェイ沖で起きたという大規模な海底地滑りで、巨大地震が引き金になりメタンハイドレートがメタンとして噴出したのが原因ではないのかと述べている。

メタンハイドレートのある海底には、メタンなどを含んだ比重の軽い泥が地層中の割れ目を伝わって海底に現れる泥火山というものがあり、またポックマークというガスの抜け穴がある。ノルウェイ沖にはそれが多い(P.168)

ノルウェイ地質工学研究所の「Explaining the Storegga Slide」(PDF英文)を参照

大量メタン排出による悪影響は、二酸化炭素以上の地球温暖化をもたらす。またこれが氷河期を終わらせた原因だと言う説もあることも述べている。

メタンハイドレートと地震とのつながりは以下の抜粋でも示されている
P.155
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「メタンハイドレートに冷湧水はつきものなんだっけ?」
「そうですよ。いやそれどことじゃない。メタンハイドレートを探すとき、地震探査をするのはご存じでしたよね」
「ちょっぴりね」
地震波を起こして海底下の地質構造を推定する探査技術だ。第二次世界大戦中に開発された対潜水艦用ソナー技術の応用である。
「メタンガスがさかんに吹き出る湧き水の周辺は、探査の有力候補地なのです。堆積物中で生成したメタンの一部はメタンハイドレートとなり、一部は堆積物から拡散して海水へ散ります(以下略)」
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…以上がこの小説のキーとなる情報だ。

前半部は雑誌編集社の上杉とその交際相手、上杉の旧友である商社勤務の葛西の話ではじまり、上杉は地球環境問題を扱った雑誌「ガイア」の編集に携わり、その延長上で旧友の葛西がハイドレート採掘プラントを指揮している事から頻繁に合うことになる。そしてこの本で述べられている主な主張の根拠は、雑誌「ガイア」の取材で出会った仙台の大学(著者が東北大出身だから東北大なんでしょうけど)の室田という教授が述べており、彼も前述の二人と緊密に連携を取ることになる。

後半はハイドレートに直接関係のない、富士山噴火とそれに関連する地震に関する内容でしめられていて小説としてはまとまりがないように思えた。

つまり後半部の物語は、大地震とそれに連動すると言われている富士山噴火が、メタンハイドレート採掘をトリガーとして起こったのではなく、悪い予想がたまたま同時期に複数重なって大惨事が起きているのだ。小説の流れがある時点から連続性がなくなり、全く違う話になってきている。後半部はハイドレートに関連する話は全くなく、富士山噴火に関する話だけだ。

物語が2つに分断されたような感じを受けるが、地震探査とメタンハイドレート探査がリンクしていることから、大地震が起きるところでメタンハイドレートを採掘するのは宿命的なものを感じる。

このレビューを書いて読み直すと、著者の主張はメタンハイドレートの採掘の危険性だけではなく、物語で出てくる雑誌名「ガイア」(地球神)という言葉に集約されていると感じる。乱開発を続けていると地球の怒りに触れるぞという警告だ。メタンハイドレート採掘により、ガイアの怒りが頂点になったという設定なんでしょう。

この物語の根拠となる参考文献を見てみると、「人類は80年で滅亡する」(西澤潤一 ほか著)が最初に取り上げられているのは意外である。西澤氏は光ファイバーや半導体レーザーなどのインターネットの基幹インフラの技術を考案した技術者だ。著者は東北大出身だし西澤氏はかつて東北大学長だったので自然と西澤氏の本に目がとまったのだろうが、西澤氏の思想に共感している部分が多いから参考文献の最初に書かれているのだと推察する。

また、木村政昭氏の著書が3つ参考文献となっている。
噴火と地震 揺れ動く日本列島
噴火と地震の科学
「富士山噴火と東海大地震」

この人は最近も関連書籍を執筆、出版しているので以下に示しておきます。

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