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何十年かぶりにアマチュア無線局を開局した。積極的理由でなく非常用としてだ。去年の台風の被害はスマホだけ持ってればいいという甘い状況ではないと悟り、必要に駆られてそうしたのだ。
数十年前は都会のマンションに住んでたので、無線をする環境は良くなく、家では確か2局しか交信しなかった(笑)。ろくにアースが取れなくて大して電波が飛ばなかった。
また、マンションのベランダの下に電車が走っているので、ベランダからアンテナ線を垂らすような簡易のアンテナ(俗にいう釣竿アンテナ)では危険と感じたのでやる気が起こらなかった。
以前のブログでは選定は実機を触って確かめると書いたが、新型肺炎騒動のため秋葉原に行けないので、機種選定はネット上で調べてFT-891にした。
FT-891にした理由。
1.最新の技術を搭載している割に安価
その最新技術というのは要するにDSP技術の事なのだが、フィルターを買わないでもDSP技術により十分狭帯域のフィルターが付いている。
なのに安いのは、HF/50MHz機でコンパクトなものを望んでいる人が少ないからだと思われる。HF帯を使う人は大概比較的高性能でサイズの大きな固定機を使うでしょうし。
2.同社のアンテナチューナー付きアンテナ(ATAS-120A)を使うとトータルコストが安い。
これも結局値段の話だ(笑)ATAS-120Aについては別エントリーで述べます。
3.セパレート式
無線を趣味としてないので、サイズは極力小さい方がいい。そこで他のセパレート式も購入候補としてIC-7100やTS480も検討したが、
IC-7100は、まず144,430MHzも対応しているので高価。パネルと本体はケーブル1本つなぐだけでOKであり、そのパネルからマイクやスピーカーなどをつなげることは非常に評価しているのだが、ウチ周辺ではほとんど誰もも交信していない144,430MHzで高価になった無線機は無駄金になると判断。そもそも当初の目的は、常に誰かが交信している7MHzに出られればOKということだった。
TS480はそもそも市場に潤沢に出回ってなく、生産終了の気配を感じる。また製造ロットによっては技適(要するに技適が通った機種は開局申請時に面倒な書類を書く必要がなしになる)が通らないものがあるらしいので敬遠。
FT-891は小さいのは二重丸で値段も安い。7MHz出られればそれで良しなので、Yaesu製品のユーザインターフェイスが複雑怪奇という欠点を上回った。またその欠点もYaesu製品が昔から搭載しているCATコマンドという、PCなどから制御ができるコマンドで回避できるかもしれないと思ったのも理由だ。私は基本プログラマーでプログラムコードを書くのが趣味みたいな人間だし、プログラムで使い勝手が改善できるなら欠点は帳消しにできるだろうと思ったのだ。
今年発売されたIC-705については、
滝をほうふつとさせるバンドスコープが売りなのでしょうが、あらゆる面において中途半端だということで購入候補ではなかった。コンパクトとはいえセパレート式ではなく、寸法がレンガのような比率の縦横高さなので場所を取るし、完全な直方体でもなくゴロゴロしやすそうで軽いのが逆に仇になって安定性にも欠けると感じる。出力は10Wしか出ないので、めぼしい外部アンプがない今では固定運用にも向かない。移動運用にあのようなバンドスコープが必要なのか大いに疑問。430MHz帯などバンド幅があり閑古鳥が鳴いているバンドでいち早くCQを出している局を見つけるにはいいかもしれんが、基本移動運用はまず自分からCQでしょう。タッチパネルは良いが画面サイズが大きすぎる。
ちなみにFT-891にもバンドスコープがあり、おまけ程度とか言ってる人がいるが、使えなくはない。仮にPCで外部コントロールし、バンドスコープの情報を取得できるのならIC-705のような流行りのウォーターフォール型を疑似的に表示することもできるだろう。でもこのタイプのバンドスコープが本当に必要な人は、頻繁にコンテストに参加する人やDX(長距離通信)をやる人以外考えられず、となれば高級機以外の必要性はないと思う。
設置とセパレート化に必要な機材について
設置は分離したパネルだけデスクに乗せて邪魔にならないようにした。5000円程度で変えるセパレートキットを買うのが普通なのだろうが、安くあげるために個別にそろえた。
マイクケーブルはLANケーブルで代用できる。したがってこれについて新たな購入は無し。
操作パネルと本体の接続ケーブルは6芯ストレートケーブルだ。これは店で売っている方が珍しいだろう。
インターフォンなどで使われるタイプだ。固定電話回線のケーブルははコネクタの形状が同じでも4芯だ。
そしてパネルを固定する器具。これは車にドライブレコーダーを付けるアタッチメントで代用した。
でもそれだけだとうまくいかずに、ホームセンターでいくつかの部品を購入した。
操作パネル裏側にある、ビス穴の直径は5mmだ。しかしドラレコのアタッチメントのビスは1/4インチ。これはカメラの三脚穴の直径と同じで6mmに近い直径だが正確には6mmではない。つまり1/4インチのビス穴と5mmのビスをつなげるアダプターが必要だが、そんなものは無い。そこでホームセンター内を物色して、八幡ねじの「カチオン電着塗装」(黒色 NO58 I-60B)を見つけてそれをアダプターとした。以下参照。
アンテナと関連部品、アンテナケーブルなどについてはATAS-120Aのブログエントリーで述べます。
実際の使い勝手
購入前から使い勝手は全く期待してなかったので、使い方に手間取っても大きく落胆はしない。
メインダイアルのフィーリングは良い。重さもコントロールできる。IC-7100の方はYoutubeで見るとカタついているようなので、それだけでもこちらを選択してよかったと思っている。
機能は豊富だがそこまで行くまでの操作が煩雑。これはコンパクトな無線機なので当然予想されていたことだし問題視しない。それでも慣れれば何とかなる。
機能選択はパネル左側下の「F」を押し(機能の種類によっては複数回押す必要あり)、「F」の左側にあるつまみを回して機能の項目を選択し、そのつまみを押す(これが独特)ことで機能選択できる。これと、パネル上部の「BAND」でバンド選択メニューが出てメインダイアルでバンド選択。同じ要領で「BAND」を長押しすると電波形式の選択ができる。とりあえずそれだけ知ってればあとは使えるだろう。あとはパネル左上のつまみは音量調節で、その外側はRFゲインコントロール(スケルチ共用)を知ってればいいくらいか。詳細設定は「F」を長押しすると出てくる。かなりの量のメニュー項目である。
ちなみに機能選択後に元の周波数表示に戻したい場合は、メインダイアル左下の「CLAR」を押す。これは私がたまたま見つけたやり方であり、正式な使い方ではないかもしれない。とにかくキャンセル、戻るに相当するボタンがこの無線機にはない。
バンド選択時、かなりダイヤルを回さないと切り替わらない。雑に使うことを想定しているのかもしれないがオプションで変えられたら良かった(もしかしたらできるのかもしれないが)
JARLなどが発表している周波数ごとの電波形式に自動対応してほしかった。寝床で今でもFMラジオとして使っている同社のワイドバンドレシーバーであるVR5000でもできているんだし、自動対応も選べる機能を搭載してほしかった。言うまでもなく大型の固定機でないので一発でCW(モールス信号)やSSBに変えられないので面倒なのだ。しかもこのFT-891の電波形式の変更は、上部の「BAND」ボタンを長押しした後にダイヤルをかなりぶん回して(前述のバンド選択時と同じ)変えなくてはならない。( 以下のYoutube動画で操作を見られます)
周波数メモリ機能は使わないので論評は避けます。
音質など
この機種は音質調整はできないが、IF-SHIFT(受信回路の中間周波数を変化させて混信のもととなっている信号を除去する機能)などである程度は変えられる。つまりノイズ除去の話にもつながってくるが、受信している信号が強力で、受信しているバンド全体がノイズまみれでない場合、FT-891の音質に特に不満はない。ただしそれは外部スピーカーを付けた場合の話だ。本体内にあるスピーカーはやはり耳障りだ。
またCWのAPF(Auto Peak Filter,一番狭帯域のフィルター選択も同様)選択時のCWの音は非常に耳障り。頭の中を突き抜けていくような音だ。この周波数の音は変えることはできないのだろうか?せっかく混信のない音が出るのに非常に残念だ。以下参照
DNR(Digital Noize Reduction)はバンド全体がノイジーの時に有効だが、音声が聞き取りにくくなる。特に信号レベルが低い時は酷く、DX通信に向かない。音声の一部もカットしてしまってるようだ。オシロスコープで見た音声波形のエッジ部分が溶けてなだらかになってしまったような感じ。ノイズが抑えられても信号もカットしてしまうのであれば利用価値は減ってしまう。この音質はリモート会議で使われているソフトから聞こえる音声だ。独特の「デジタルくさい音」であり、やってることは同じなんだろう。
DSP処理した音にしても、狭帯域のフィルターを通した音にしても、耳に手を当てて聞くような音で息が詰まるような感じだ。
問題点
使い勝手以外の問題点として
各バンドの設定がバンドを切り替えるとクリアされる(正確にはどのタイミングでクリアされるかは定かではないが、とにかくいつの間にかクリアされることは確かだ)。DNRなどを設定してもいつの間にかクリアになってしまうのだ。最悪なのはAGC(AutoGain Control)もいつの間にかクリアになり、AGCが必須のCWだと割れたような信号音にいつの間にかなってしまう。この音はAPF設定時よりさらにひどい音であり、最初はCWの音がこんなに酷いなんて、メーカーはよく見逃していたなとさえ思った。CWの機能が豊富なのに信じられないと思っていたら、いつのまにかAGCがOFFになっているからそんな変な音が出ていたのだ。でもCWでAGCが必須であろうとなかろうと、あんな割れた音を出すことを許容しているメーカー技術者の神経を疑う。そもそも何でCWではAGCが必須なのか理解に苦しむ。信号が強くなろうが弱くなろうが、信号音の大きさが変わるだけで音質は変化しないだろうに。
DSP処理絡みの問題なのだろうか?多分そうだろうね。DSPのチップに絡んだ問題だろう。しょぼいチップを使っているからだと推測する。
ロシアのソフトウェア無線機は、PC上で使う受信ソフトと実際に受信した音の音声ファイル部分を無料で聞けて、PCがあればその受信性能を誰でも確かめる事ができるのだが、PC側であらゆるデジタル処理を行っているので、より負荷のかかるデジタル処理ができるからなのだろうか(サンプリングレートが高いからか)、狭帯域のフィルターを使用しても昔のアナログ機のような自然な音でありながら、いわゆるデジタルくささが全くない。
でも最近は、受信だけこのようなソフトウェア受信機でIC-705のようなウォーターフォール型のバンドスコープをPCのモニターに表示させて送信のみ無線機に頼るというスタイルが流行っているので、逆にコンパクトなFT-891はそのような用途にはうってつけかもしれない。RTTYやFT8などのPC必須の電波形式ならなおさら。つまり今はやりのシャックは、大画面のモニターが鎮座してるので送信機は目立たない所(最適なのはアンテナのすぐそば)にあればいいのだ。でもFT-891はUSBでPCとつなげるので遠くの位置に設置するのは難しい。最低LANには対応してないと。