インピーダンスマッチング

信号を減衰なく忠実に伝達するには、実装技術ももちろん必要ですがインピーダンスマッチングが合っていることも重要です。オーディオなどの低周波回路ではあまり考慮していませんが、高周波回路になるほどマッチングが重要になってきます。

特にトランジスタの入出力インピーダンスは周波数や設計でかなり変化するので、気をつける必要があります。
マッチングが合っていないと、反射波が回路内を往復することになってそれを元の信号が重なり合った波形を次の回路に入力されますので、当然波形が変化してしまいます。

電力を効率よく伝えるためには、

電力 = 電流^2×抵抗 
= (電圧/(入力インピーダンス+出力インピーダンス))^2×抵抗
= 入力インピーダンス×電圧^2 / (入力インピーダンス+出力インピーダンス)^2
(高周波回路の設計 鈴木憲次著 P.27)

から、入出力インピーダンスが同一のとき、電力が最大値となります。

トランジスタ回路のインピーダンスマッチング

入力インピーダンス

鈴木雅臣氏の「定本..」 によれば、電流帰還バイアス回路(彼の本は基本的にこの回路の設計しか説明していない)の入力インピーダンスはR1//R2 (= 1/(1/R1 + 1/R2) 要するに // とは逆数を足し合わせたものの逆数 ) と説明していますが、これは低周波回路のみで言えます。周波数が数百KHzでもこの近似式は食い違ってしまいます。
基本的にはトランジスタの入力インピーダンスは、R1とR2の他にRE,RCそしてトランジスタそのものの入力インピーダンス(hie)が絡んでいます。
鈴木雅臣氏の「新・低周波/高周波回路設計マニュアル」 でも説明されていますが、トランジスタ回路の入力インピーダンスは、 

R1 // R2 // (hie + Re)

で、Reに並列してエミッタバイパスコンデンサがあるなら

R1 // R2 // (hie + Re//(1/2πfc) )

(R1,R2はバイアス抵抗。REはエミッタ抵抗。RCはコレクタ抵抗。具体的な位置関係は1石トランジスタ回路の設計参照)

hieと1/2πfc(コンデンサの容量性リアクタンス)は周波数特性を持っていますので、周波数でインピーダンスが違ってきます。
ちなみに 2SC1815-Yの入力インピーダンスを図の回路で測定したら、以下の様になりました。 

入力周波数 入力インピーダンス
1KHz 1MΩ
10KHz 200KΩ
100KHz 15KΩ
1MHz 1.5KΩ

となりました。
ちなみに「高周波回路の設計」で、AMラジオの中間周波数である455KHzの時の2SC2668の入力インピーダンスは2KΩ程度と書いてあるので、多分そんなには間違っていないとは思います。更に混乱させてすみませんが、コレクタ抵抗(RC)を低い値(51Ω)にしたら、この実測値より更に下がります。RCも入力インピーダンスに影響を与えていることは間違いないですが、RCが相当低い場合にみ影響を与えているようだ。)

このことから、高い周波数にいくほどトランジスタは入力インピーダンスが低くなりますので、インピーダンスマッチングもそれを考慮する必要があります。
なお、この入力インピーダンスの測定方法は鈴木雅臣氏の「定本..」 に書かれていた方法で、オシロスコープを見ながら、任意の抵抗を入れて、波形が元の波形の1/2になった時を入力インピーダンスとしている方法で、あまり正確なものではありません。しかし、大雑把な値は把握できる方法です。

数学に明るい方ならすぐにイメージできるかと思いますが、入力インピーダンスの式は
R1 // R2// (hie+Re)
から、この実際の計算値は、R1,R2,(hie+RE)のうち一番低い値をもつインピーダンスに近い値になり、その値より若干低い値となります。

具体的には、もし入力周波数が1MHz以上で、2つのバイアス抵抗R1,R2の値が10KΩ以上の値(低周波回路用で設計するならそういう値になる)なら、(hie+RE)の値がR1,R2の値より低くなるわけで(REは数キロΩと仮定する)、上の表からすれば、このトランジスタ回路の入力インピーダンスは、ほんの数KΩになります。

要するにトランジスタ回路の全体的な入力インピーダンスは一番低いインピーダンスを持つ素子が一番値に影響力を持つので、その値を見てからマッチング回路を考えることになります。


出力インピーダンス

これは鈴木雅臣氏の「定本..」 によれば単に負荷抵抗であるRCが出力インピーダンスになる(エミッタ共通回路、ベース共通回路のとき)と書いてありますが、これも低周波のみで成り立つものだと思います。コレクタ共通回路(エミッタフォロワ)のときは非常に出力インピーダンスが低くなる回路なので正確な値を論じることはここではしません。
出力インピーダンスも、入力インピーダンスもそうなのですが、トランジスタを電流制御素子として、無限大のインピーダンスがあると仮定して計算式を算出している本が多い感じを受けます。
当然、トランジスタが無限大の入出力インピーダンスなら 低周波のトランジスタ回路の入力インピーダンスはR1//R2//∞ ( = 1/(1/R1+1/R2+1/∞) )となり、無限大の値ははあってもなくても,R1//R2と同じ値になります。しかし、高周波になれば、トランジスタの入出力インピーダンスは当然下がってきます。トランジスタは内部の静電容量をのせいで増幅度を低くさせるミラー効果があるということは、コンデンサと同じ周波数特性を持っているといえます。コンデンサの容量性リアクタンスは1/2πfcなので、周波数が上がるほどインピーダンスが下がることを意味します。
結局、筆者の結論は入出力インピーダンスは実測が一番間違いないということです。しかし、一応理論上の値もある程度頭に入れとくのも1つの指標とはなるとは思います。

出力インピーダンスの実測方法は、入力インピーダンスの実測方法と同じ要領でコレクタに任意の抵抗をつないで、片方をオシロスコープに繋げます。任意の抵抗をつないでその抵抗を介した振幅がコレクタから直接オシロにつないだ時の振幅が1/2になれば、そのときの任意の抵抗値が出力インピーダンスになります。
ちなみにFETはトランジスタより高インピーダンスですが、それでも高周波でのインピーダンスは無限大と仮定していいといいほど大きな値ではありません。(せいぜい1KΩまで)


インピーダンスマッチング

トランジスタ回路の入力インピーダンスのマッチング

結論から言えば低周波(と言っても数百MHzでもOK)なら抵抗を並列(信号線とGNDの間)に入れることです。
直列に入れたら、信号が大幅に減衰します。
入力インピーダンスのマッチングは、マッチングしたいインピーダンスと同じ値の抵抗(R3)をバイアス抵抗の前段に入れます。R3とR1,R2の間にコンデンサがありますが、これはベース電位を保つカップリングコンデンサです。FETならR1,R2、カップリングコンデンサをとっぱらって、R3だけでマッチングさせることも微弱信号を扱うのであれば可能でしょう。
高周波回路は基本的に50Ωもしくは75Ωでマッチングさせているのがほとんどですから、トランジスタやFETの入力インピーダンスが高周波では大幅に低くなっているとは言え、50Ωとか75Ωにはなっていないので、単にR1,R2の前段に並列に50Ω,75Ωを追加することで容易にマッチングします。
R1,R2,REやエミッタバイパスコンデンサのリアクタンス,トランジスタの入力インピーダンスがいかなる値であろうと、50Ωもしくは75Ω以上ならR3を50Ω(もしくは 75Ω)にすれば
R1//R2//R3//(hie+RE//(1/2πfc))を計算すれば50Ωより若干低めの値が出てくるはずです。
完全に同じインピーダンスにしたいなら、56Ωとかマッチングしたいインピーダンスより高めの抵抗を選択すればいいのです。このときは、一応入力インピーダンスを実測するか、概算でも言いからインピーダンスを求めておいた方がいいと思います。このとき重要なのがトランジスタやFETの入力インピーダンス値です。ここが高周波回路では一番低い値になりやすいので、この値は正確に知っていなければ概算は大幅に違った値になります。


トランジスタ回路の出力インピーダンスのマッチング

高周波回路では、FETのデータシートなどを見るとコイルとコンデンサを使用したマッチングをしているものを見かけますが、これははっきり言って設計が面倒でかつ周波数特性を持っているので、特定の周波数だけ増幅するだけなら思ったとおりになるとは思いますが、広い周波数範囲には不向きです。
いちばん簡単なのが、エミッタフォロワ(ソースフォロワ)を追加することです。エミッタフォロワの出力インピーダンスは非常に低いので単純に51Ωを直列につないでもマッチングすることになります。

抵抗によるマッチングの問題点

今までのマッチング方法は抵抗を使ったもので、簡単かつ周波数帯域に関係ないという長所を持っていますが、大きな問題が一つあります。つまり、振幅が半分になるのです。ですから増幅時は2倍以上ないと元の信号より小さな信号になります。これは送信器の電力増幅段とかオーディオ回路では問題ないかもしれませんが、微弱信号を扱うラジオの高周波増幅や中間周波増幅では問題です。
電流帰還バイアス回路を見ればわかりますが、入ってくる信号にR1やR2などのバイアス抵抗があると言うことは若干ながらその抵抗を通して信号が流れて出ているのです。もちろんマッチング用のR3も直接GNDにつながっていてかつR3の値は基本的に50Ωとか75Ωなどの低い値なのでR3から半分近い量の信号が流れ出ているのです。(それもこれも反射波を発生させないためであるのですが)

ですから、微弱な信号は間には何も入れないで直接トランジスタやFETのベースやゲートに入れた方が信号の減衰はありません。しかしマッチングは合いません。そうなるとやはりコイルとコンデンサを使ったものかコイルだけのものを使用したマッチングを使用します。もちろんトランジスタよりFETの方がバイアス回路が必要ありませんのでバイアス回路から流れ出る信号を無くせますし、FETの高周波特性はトランジスタより優れています。抵抗を使ったマッチングは信号の減衰が起きますが、コイル(L)とコンデンサ(C)によるマッチング回路に比べて広い周波数範囲においてインピーダンスが変動しにくい利点があり、設計が容易です。広帯域増幅には向いていると思います。減衰分は低ノイズのトランジスタやFETで2倍(6dB)分以上稼げばいいという考え方もできます。それにLCのマッチング回路でも実際には減衰は起きます。


高周波回路でインピーダンスを計測する方法

鈴木雅臣氏の「定本..」 によるインピーダンスを測定する方法は簡単なのですが、使用するオシロスコープが測定できる周波数以上のインピーダンスを測定することはもちろんできません。高周波を直視できるオシロスコープは高価ですし、インピーダンスアナライザという専用の製品もありますがこれも確か400万程度したかと思います。
そこで、テスターを使って高周波電圧と高周波電流を測ってそれからインピーダンスを測る方法を示します。
テスターで測定できる交流電流は低い周波数しか対応していません。ですから、テスターで直接高周波電圧や電流は測定できません。そこで、測定したい信号を直流に変換して測定する回路を間にかませて測定します。
その回路は基本的に整流回路です。ダイオードを2本使用した回路をここでは紹介します。


この回路の出力をテスターにつなげて、電圧と電流を測れば、電圧/電流=抵抗(インピーダンス)が測定できます。数百MHzまではOKだそうです。ただし、容量性リアクタンス、誘導性リアクタンスは当然測定できないので、コイルとコンデンサによるマッチング回路は設計できません。インピーダンスが容量性か、誘導性かを調べるにはインピーダンスアナライザやネットワークアナライザと言う本格的な測定器が必要になります。


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