発振回路
ここではデジタルICやオペアンプを使ったものでなく、LC発振回路(それも高周波で使用例の多いコルピッツ発振回路のみ)について述べます。
LC発振回路はデジタル化が進んでいる電子回路の中でも今だに結構残っているアナログ回路です。
直接波形を生成するDDS(Direct Digital Synthesizer,マイコンが一定時間間隔に特定の電位を発生させるものと思えばいい)ICが安価になれば安いラジオやラジカセは全部それに置き換わってしまうのでしょうが、現状ではそこまで行っていないようです。
最近では安いラジカセでも周波数がデジタル表示されボタンで放送局を簡単にチューニングできるようになりましたが、その中にも多分LC発振回路は使われていると思います。ボタンでチューニングするラジカセはPLL(Phase Lock Loop)-ICが入っていて、そのPLL-ICはLC発振回路を制御して、時間が経つごとに変化してくる周波数を補正しています。トランジスタは温度の変化で特性が変化するため周波数が微妙に変化するのです。(ダイヤルチューニングのラジオやラジカセは時間がたってくると周波数がずれて、特にAMラジオの場合、明らかにチューニングがずれているとわかります。ラジオになぜ発振回路が必要かは、「ラジオの回路」を参照)
つまり肝心の発振回路はいまだアナログ回路です。特にラジオやチューナーの発振回路は、単に発振しているだけではダメで、
1.綺麗な正弦波であること、
2.温度などの条件変化で周波数変動が少ないこと、
3.広い帯域の周波数を出力できること
4.VCO(電圧制御発振器)として使用する場合は、制御電圧に対してリニアに周波数が変化すること
などの条件が必要になります。
1.の綺麗な正弦波とは、要するに正弦波でない波形だと必ず基本周波数の整数倍の高調波
が含まれていることになり、ノイズの元になるのです。DBM(Double Blanced Mixer)に入力する波形は矩形波がいいということも言われていますが、基本的にはいらない周波数は初めから出さない方が、性能が良くなりますし、高調波が思ってもみない回路の中に入り込んで発振したりすると言う厄介なトラブルを抱える可能性が少なくなります。短波帯の高級無線機のカタログではこの発振器の部分がどれだけ綺麗な正弦波が出ているかアピールしているものがあります。
ではどうすれば綺麗な正弦波を得ることができるのか?発振回路のどの部分を出力にするかで波形のよしあしが決定します。具体的には、トランジスタから一番はなれている部分を出力にすればよいのです。トランジスタに直接つながっている部分(例えばエミッタ)を出力にしている回路をよく見かけますが、そこは一番波形が歪んでいる部分です。トランジスタは非線形素子なので歪んでいるのは当然でしょう。FETに変えればある程度綺麗になるとは思いますが。
また、C1とC2の値をC1>>C2にすれば波形は良くなりますが、発振しにくくなります。C1=C2にすれば波形は悪くなりますが、発振はしやすくなり安定度が増します。しかし、C1=C2にしても発振用トランジスタから離れたところから出力を取れば綺麗な波形を得ることができます。
2.はPLLと一緒に使っているなら問題ないのでしょうが、自作でPLL回路を組むと結構面倒です。ですから、これも必須項目です。コルピッツ発振回路の変形版であるクラップ発振回路にすればLC発振回路でも結構安定します。しかし、可変できる周波数範囲が狭まってしまいます。
コイルをクリスタルやセラロック(村田製作所)に変えた場合は、周波数安定性はLC発振回路よりはるかに優れますが、可変できる周波数範囲が大幅に狭まります。
3.は非常に難しいですね。LC発振回路で周波数を可変する方法は、基本的にL(コイル)かC(コンデンサ)の値を変えるしかありません。実際はコイルを変えて変化させることは多分ほとんどありません。(回路の調整時にドライバを使って調整すると言うのはありますが)。基本的はコンデンサの静電容量を変えるしかありません。静電容量を変えられるコンデンサはポリバリコン、エアバリコン(ほとんど見かけないでしょう。)、バリキャップ(バラクタダイオード又は可変容量ダイオードとも言う。電圧によって静電容量が変化する)です。バリキャップは可変容量ダイオードとも言っていますが、基本的な使い方はコンデンサです。ダイオードと内部構造が似ているし製造方法が多分大して変わらないからそういわれているのでしょう。
(ちなみにバリキャップのような製品があると言うことは通常のダイオードにも静電容量があると言えます。ですからダイオードが組み合わさったトランジスタにも静電容量がある訳で、エミッタ共通回路の高周波で利得が落ちてしまうミラー効果もその静電容量のせいで起こります。)
話が脱線しましたが、コンデンサの容量を変えるしか周波数の変化はできないと言うことは、可変できるコンデンサの容量がどれだけ変化できるかで出力できる周波数帯域が決まります。
(LCを使った発振回路の共振周波数は f= 1/sqrt(2πLC)です。)
もちろんコイルのインダクタンスも出力する周波数に影響を与えるので、最適なインダクタンスとコンデンサの容量を決定するのは結構面倒で、自由には設計できません。ポリバリコンの可変容量やバリキャップの可変容量ももちろん限りがありますので、それらが広い可変容量を持てば広い帯域の周波数を出力できます。最近の製品ではバリキャップを使う例がほとんどだと思うのでバリキャップが高性能化されています。
4.もバリキャップの性能如何によるでしょう。VCOといったら、もうバリキャップを使った回路になります。上の回路だとC1とC2がバリキャップになるか、Lと並列にしてバリキャップを入れたものを見かけます。