水野和夫「世界経済の大潮流」
筆者はもう経済関係の本はほとんど買わないようになってしまった。なぜならほとんどの経済本の著者は、自分の属する組織に有利な論理を展開しているだけで、公平な視点で見ているとは思えないからだ。加えて本の中で言っている事がほとんど過去で読んだ誰かの本のでの発言と同じであり、少し立ち読みしただけで、同じ内容の中身の焼き直しの本だとわかってしまう。特に人目に触れやすい平積みされている本、売れている本ははそうだ。
しかし、売れている経済本の著者の中で水野和夫氏の本は一度も買っていなかった。テレビでの発言から、どのような考えをしている人なのかはわかっていたから買う必要がなかったのだが、この人の発言には同意する発言が多々あったから今回買ってみた。また、当時証券会社に所属していたにもかかわらず、珍しく証券会社に有利な発言をしていない所も少し驚いた。
水野氏いわく、資本主義は最終的に過剰な蒐集(収集)が利率の低下、金融市場主義をもたらしたと述べている。
利率の低下はアメリカの場合1974年をピークに下がり始め、それは従来型の企業や個人にお金を貸し出してその利益から利潤を得る行為の効率性より、カネをまわすだけでカネを得る行為のほうが効率的ななった事を意味するという。つまりインフラやサービスが十分に整備されたら従来型の資本主義は行き詰ると主張しているのだ。水野氏は1974年までが「近代」と定義している。
しかし、金融に頼った今の資本主義も従来型の資本主義の延命に過ぎず、年を負うごとの利率低下を防ぐために、人類は価格を吊り上げるような手法(バブル)をいくつも繰り出してきた。日本なら土地や、アメリカなら住宅や一般人のカネを株式投資に向かわせる方策など。しかし、延命策は延命策に過ぎず、根本的な解決ではないし、既にそのほころびが出てしまっているのは周知のとおり。金融緩和も延命策のひとつだ。資本家がどんなにカネを持っていても、どんどんとその価値が目減りするという意味のことも言っている。(P.21「利子革命と資本家の終わり」)
結局今のやり方を踏襲し続けたい(近代の再延長と述べている)のなら、宇宙人と交易するくらいしかないとさえ述べている。
現状はデフレは慢性化しエネルギー価格は上昇し続ける状態になる。今の経済システムにおいて先進国の大きな成功は、産出国から調達する原油などのエネルギーコストを大幅に安値に抑えた結果によるところが大きいと述べている。
水野氏はここでエネルギー革命が重要だと述べている。しかし、原発はもう選択肢としてありえないと述べている。
….以上ざっくりこの本の内容を書いたが、要は今の膨張主義では今の停滞した経済は絶対に回復しない、我慢することも重要だと述べている。具体論では低金利より今は金利を上げるべきであり、膨張ではなく「定常」状態でも経済が回っていける仕組みが必要だと述べている。(P.51[成長社会と定常社会」)
筆者は水野氏の考えに賛成だ。ほとんど異論はない。この人は証券会社を長らく勤務していたのに近視眼的なものの見方をせずに、非常に高い視点で物事を見ている。エコノミストとは元来そういう見方をしなくてはならないのだとは思うが。
経済本は基本的に著者が持論の根拠として、グラフを示してそこから単純な一次直線を著者が導き出して理由付けを行っているし、この本もそうなのだが、あまりにも短期的かつ振れ幅が大きいグラフに対して、単純な一次直線化として捉える事ができるのかとこの本でも感じられた。
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投稿: 2012年 7月 29日, カテゴリ 本.